舞台役者 尾道絵菜さんインタビュー~前編~

場所は、尾道絵菜さんオススメの喫茶店。 尾道さんはおっとりしていて、柔らかい雰囲気があり、まさしく“大和撫子”といったイメージ。 そんな尾道さんに、この道を志したきっかけや、このお仕事への思い入れなど、いろいろ聞いてきました!

たくさん語って頂いたので、全3回にわたってお送りします!

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――よろしくお願いします! 尾「よろしくお願いします」

――早速ですが、おいくつなんですか? 尾「24です」

――じゃあ大学を卒業されて……。 尾「卒業してもう2年ですね」

――今は舞台で役者としてと、ダンサーとして活動してると伺っていますが、肩書きは何になるのでしょうか? 尾「肩書きはそうですね、役者って言ってます。でも、舞台とダンサーの活動と、半々くらいでやってるかなって感じですね」

――だいたいどれくらいの活動をされてるんですか? 尾「去年はお芝居は1本しか出てないんですけど、ダンスの公演やコンテストに3つ4つ出ました。 お芝居を年に3本やった年もあるんですが、紹介や、自分でオーディションを探してやっているので、具体的にどれくらい、っていうのは決まっていないです」

――1年で舞台1本とダンス3~4本ってけっこう大変そうですね!皆さんそれくらいなんでしょうか? 尾「たぶん少ないですね。お芝居1本やるってなると、稽古期間が2ヶ月毎日っていう場合もあるので。1年の内に1本しかやってないのは少ないですね」

――でも1本で2ヶ月で、舞台とダンスで5本ということは……10ヶ月くらいがっつりということですか? 尾「ダンスの方は毎日ではなくて、3~4ヶ月かけて、1週間に2回ぐらいのリハーサルをやりながら長い期間で完成させていく、っていう感じになります。

あとは舞台だけじゃなくて、時々映像のお仕事とかもさせていただいてます」

――映像のお仕事って、例えばどういうお仕事をされてるんですか? 尾「去年だと、自主制作の映画に出させてもらったりとか」

――映画も出られるんですね!よかったら作品名を教えてもらってもいいですか? 尾「『Time

is…』っていう作品で、まだWEB上でも公開はされていんですけど……。 あとは、TVのバラエティ番組に出演しました」

なるほど、いろんな活動をされてるんですね。最近もいろいろな活動を? 尾「でも一番は舞台ですかね。次のお芝居が5月に決まってて、もうすぐ稽古がはじまるんです」

――もうすぐですね!じゃあ告知されたら是非教えてください!

尾道絵菜さんインタビュー時1 優しく、落ち着いた話し方で話してくれる尾道さん。 でも、そこには強い意志が感じられました。

――この道に入ったきっかけは何かあるんですか? 尾「昔から、女優さんに憧れていたんです。 親の知り合いで子役をやっている子がいたりとか、同じ小学校で子役をやってる子がいたりとか、小さい時に見てた『家なき子』の安達祐実さんが衝撃的だったりとか、っていうので、昔からすごく興味はあったんですよね。 でもなんか、自分の中で『やっちゃいけないもの』というか、自分は、けっこう小さい時から、『高校卒業して、大学4年制を卒業して、就職するのが当たり前の道で、それが正解で、それ以外は自分の選択肢の中には含まれていない』って、なぜかずっと思ってたんです。 なんですけど、高校入ったくらいから、すごくいろいろな人に出会うわけです。 その中で、『やりたいことやってもいいんじゃないのかな』って思いはじめ、高校生くらいの時からいろんなオーディションを受け始めて。 ただ、親には言えなかったので、親の許可がもらえず、二次面接までいってもその先にも進めないし、みたいな。(※) まあ親云々じゃなく、まず進めてなかったっていうのもあるんですけど(笑)」 (※未成年がオーディションに応募するには、親権者の許可が必要です)

――ご家族には完全に内緒でやってたんですか? 尾「内緒でやってました。で、家に一次審査通過の通知とかが来てバレる、みたいなことはあって(笑) 『またバカなことやって』って怒られながらも辞めずに勝手に出していて。 そういう状態が続いていて、もう就活するっていう年齢になり、就職活動したんです。 でも本当にあと2年で学生が終わるって思ったら、もうお芝居とかできなくなっちゃうし、『習い事でいいから1回やってみよう』っていう感じで、3日間の短期ワークショップに行ったりとか、週に1回のお芝居のレッスンに行ったりとかして。 で、通いはじめたら、もう楽しくなっちゃって、やりたくなってしまって」

――そのままこの道に進む決意を? 尾「就活で、この面接を越えたら最終面接っていう人事部長さんとの1対1の面接の時に、2時間話して、結局『やりたいことやれば?』って言われて。 で、『やりたいことがあるっていうのはばれるんだな』って(笑)。 その時はまだ就職するってことに気持ちが割り切れていなかったので、『だったら気の済むまでやってから就職したっていいじゃないか』って思って、そこからちゃんと活動をしはじめたって感じですね」

――じゃあけっこう遅めのスタートだったんですね 尾「めちゃくちゃ遅いですね。そのお芝居のレッスンに通いはじめたのが大学3年生の時で、21歳でした。 その時お芝居の先生に、『年齢は女の子のボーダーラインをとっくに超えてしまっているけど、“やろう”と思ったならやればいい。年齢を、やらない言い訳にするな』というようなことを言われて……『じゃあやろう』って思ったんですね」

――素敵な先生ですね。そこも、内緒でオーディションを受けて? 尾「そこに入るのにはオーディションはなかったですね。 養成所だと入学にめちゃくちゃお金がかかって、というところが多いですけど、そこはそんなに高くなかったし、習い事感覚の人もいれば、プロ目指してる人もいれば、前の事務所をやめて次の事務所決まるまでっていう人もいれば、っていうところで。 通い始めた時は、それもまだ内緒だったんですよ。就活の時にはじめたので」

――就活の時は流石に反対されそうですもんね……(笑)今はご存知なんですか? 尾「はい。今は、まあ認めてくれてはいます(笑)」

――それはいつ、どう話したんですか? 尾「えーと、親がけっこう投げやりに、『そんなにやりたいんだったらなんでも受ければいいじゃん』って言ったんですよね、お酒が入った状態で。 『内緒だったけど、私はけっこういろいろ挑戦してきたんだけどな』って思いながら(笑)、『じゃあやります』って言って。 それが大学4年の5月ぐらいだったんですけど、その時点で就活をやめて、半ば無理やりという感じでした」

――やっと尾道さんの熱意が伝わったっていうことですね! 尾「だといいんですけどね(笑) なんだかんだ毎回お芝居もダンスも見に来てくれているので、応援はしてくれてるのかな(笑)」

――具体的に女優さんに憧れたきっかけはありますか? 尾「本当に最初に憧れたきっかけは、親の知り合いの子役をやっている子が出ているミュージカルを見たことですね」

――それが印象に残ったんですか? 尾「自分より1歳下の子だったんですよね。私が小学校2年生の時、その子が1年生で。 でもそのミュージカルのメインキャストだったんですよ。 それで、普通の小学生の自分と、1個下でキラキラしているその子を見て、比べて、『私のこんな年齢でも、あんなに活躍できる場があるんだ』って思ったのが最初の興味のきっかけですね」

――その時に子役をやってみたいとは思わなかったんですか? 尾「思いました。親が私のそういう気持ちに気付いたのか、ただの気まぐれなのかはわからないですけど、『やってみる?』って聞かれたことがあったんですよね。でもその時は素直にやりたいって言えなかったんです。やりたいと言わずにちょっと濁したんですよ。 そしたら『まあやりたいって言ってもやらせてあげられないんだけどね』っていう返事が返ってきて」

――うわぁ、それは子供ながらにショックですね……。 尾「私の家は親が共働きで、両親ともに帰りが夜遅かったんです。 クラシックバレエをやりたいって言った時とか、ミニバスをやりたいって言った時とかも、『送り迎えできないし、お母さんはサポートする役員とか一切参加ができないから、やらせてあげられないの。ごめんね』っていうことをずっと言われていたのもあって。でも働く両親の姿が好きだったので、その時は納得して諦めました」

――やりたいことをできずに時間が経っていくって、もやもやしますね……。 尾「ずっともやもやしてたことをやらずに大人になったから、就活をやめるっていう大きな決断をしてまで、“やる”っていうところに至ったんだと思いますね」

――じゃあご両親からしてみたら『やらせておいたらよかった』って思ったかもしれませんね(笑) 尾「そうだと思います(笑) 私も自分で、小さい時にお芝居をもしかじってたとしたら、もしかしたらその小さい時で満足して、今は違う道を歩んでいたかもしれないし、それをやったことによって何か別のものに出会って、何か別のことを目指してたかもしれないし、って思うんですけど、小さい時からずっとやりたくて、『でもだめなんだ』っていうのがもう20年間続いちゃったから、今は『これがやりたい!』って思ってるんだなって」

――やっとやりたいことができて、とりあえずの目標は果たしたわけですね。この世界に飛び込んでの目標は何かありますか? 尾「目標という意味では、自信を持って『役者です』って言えるようになりたいです」

――自信を持って、ですか? 尾「『何をしてるんですか?』って聞かれて、自分の肩書きと、“役者”っていう言葉が、自分の気持ちの中でイコールで結ばれてないんですよね。 それで稼いで食べているわけではないし、事務所に入ってないので、自分がやらなかったら仕事が何もないんですよ。 自分は小さいながらも舞台とかいろいろな活動をしているし、時々TVにも出るし、だけど、他の人から見たら“役者志望の人”でしかないと思うんですよね。 そういうところからは完全に抜け出して、自分が何者なのかって聞かれた時に、『役者をしてます』って自信を持って言えるようになる、ということが目標です」

――具体的にどういうラインっていうのはあるんですか?こうなったら目標達成!とか。 尾「けっこう気持ちの問題が大きいので、『こうなったら』っていう明確なラインはないんですけど……。 ただ、すごく難しいんですけど、そういう芸能の仕事でちゃんとお金を稼げるようになるっていうところまではいきたいなって思いますね」

――芸能のお仕事一本で生活っていうことですよね。 尾「そうですね。 あとは、人から役者として認知されることです。 今は、昔から舞台を見に来てくれてファンになってくれてる人たちからは、“役者”っていう認知をもらえているんですけど、それは数で言ったら多くないですし……。 アイドル育成カフェにいたこともあるんですけど、そこで出会った人たちからは、“役者”としては見られてないんですよね。“お芝居がやりたい元アイドルの子”っていう認識でしかなくて。 その認識が、『この子は女優さんです』っていうふうになったらいいなって思うんですね」

――アイドル育成カフェにいたんですね!なぜアイドルの道に? 尾「そこのコンセプトとして、『いろんな人がいますよ』っていうのが最初ウリだったんです。

声優やってる子もいれば、役者やってる子もいれば、他でアイドルユニットをやってる子もいれば、っていうのを知っていて。歌って躍ることは好きだし、そういう活動自体に多少の興味はあったんですよね。 ただ、アイドルになりたいというわけではなくて……でもなんでそこに入ろうと思ったかっていうと、コミュニケーション能力を鍛えるためというか、私は喋るのが苦手で。 自分の『私はこうなんです』っていうのを喋ることはあっても、人との会話をする機会があんまりなかったんですよね。 たとえばオーディションでも、会話の技術が必要ですし、オーディションだけじゃなくて、舞台の現場に行った時にも、まわりの役者さんなりスタッフさんなりとどうやって関係を築いていくか、っていうのも……。その中で、なんていうか社交性がなさすぎて、勿体ないことをした経験っていうのが少なからずあって。 そういう意味で、人と喋らなくちゃいけない環境に行くっていうのは、すごくいいことなんじゃないかなって思ったんです。 人と話す機会があって、ステージに立つ機会があって、人の目にさらされることで自分を磨いていける機会があって、そういうものを総合的に磨いていくっていうのにはいい環境なんじゃないかなって思って」

――なるほど、ステップアップのための選択ということですね。 尾「あと、さっきはそこの人には役者として見られてないって言ったんですけど、役者として見られなくても、『まず私を知ってもらう』っていう意味では、とてもいい環境でした。 本当にずっと小劇場だけでやってたら、できなかったこと、出会えなかったこと、ってけっこうあると思うんですよね。 ……あんまりいい話じゃないんですけど、舞台に出る時って、“どれだけお客さんを呼べるか”っていうのが、評価対象になるんですよね。 もちろん自分の技術を磨いていくのは大事だけれど、それと一緒に集客力っていうものも付けておかないと、誰かと『どっちにしよう』ってなった時に、同じように芝居ができて、同じようなイメージの子で、こっちの子は客が呼べるけどこっちは呼べないってなったら、落とされるのは私の方なんだなっていうことに気がついて。 だったら少しでも自分の名前を知ってもらえるなら、多少自分のやりたい道と逸れたところでも、結果的に自分のやりたいところに還元されるんじゃないかなぁって思ったんです。 実際にそこで出会った人たちが、去年出た舞台にたくさん来てくれたし、そこで『あの頃よりも輝いてるね』とか『楽しそうだね』とか、『本当はこっちやりたかったんだね』とか言ってくれた人もいたし。 きっかけはなんであれ、そうやって私がやりたいことをやっている姿を見て、『応援したい』って言ってくれる人と出会えたっていう意味では、本当にやってよかったって思いますね」

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中編へ続く